年金、ごみ出しなど生活に身近な話題から、災害や新型コロナなどニーズの高い情報まで、市役所から市民のみなさんにお伝えする情報は多岐にわたります。
一方、市役所からの通知や案内は、難しい言葉や専門用語が多いなど、「分かりにくい」とよく言われます。そこで神戸市では、すべての市民にとって分かりやすくするための文書の改善に取り組んでいます。
さらに、近年は日本語が得意ではない外国人住民の方も多くなってきており、そうした方にも分かりやすい「やさしい日本語」の活用にも取り組んでいます。
取り組みを進める、国際課職員の中井係長とダンさん、文書改革専門官の松本さんに話を聞きました。
左からダンさん、中井係長、松本文書改革専門官
―そもそも、「やさしい日本語」ってなんですか?
国際課 中井さん:
「やさしい日本語」は、簡単な単語や文法を使用するなど、日本語が得意ではない外国人住民でも理解できるように配慮した日本語のことです。たとえば、「免除」という言葉を「○○しなくてよい」と言い換えたり、文章にふりがなをふったりします。
「やさしい日本語」は、阪神・淡路大震災のとき、英語も日本語も得意ではない外国人住民の方に、避難情報や支援情報を満足に届けられなかった反省から生まれました。
私と、ベトナム出身の職員であるダンさんは、外国人住民の支援を担当しており、多言語(最大11言語)での情報発信にも取り組んでいます。しかし、すべての文書をすべての言語で対応することはできません。
実は、日本に住んでいる外国人に「日常生活に困らない言語」を聞いた調査で、「日本語」という回答が一番多くなっています。とはいえ、中には日本語が得意ではない外国人住民もいるため、一番多くの市民に情報を届けるために注目されているのが「やさしい日本語」です。
―なるほど。実際に、どのような取り組みをしているのでしょうか?
意見交換会の様子
国際課 ダンさん:
まず、外国人住民の多い中央区役所と一緒に、「やさしい日本語」を実践するときのポイントの整理や、「やさしい日本語」にすることでどのくらい文書が分かりやすくなるのかという検証をしました。
役所をやさしく、「やさしい日本語推進プロジェクト」
これを踏まえて、神戸市の文書改革専門官である松本さんや、日本語教師、外国人住民に委員になってもらい、分かりやすい文書に関する研修や、実際の文書を取り上げて、分かりやすくするための意見交換を行いました。
文書改革専門官 松本さん:
市から発信される文書にはいくつかの傾向が見られます。
たとえば、文書作成者が持っている情報を全部伝えようとするあまり、一番伝えたいことが埋もれてしまいがちということもその一つです。「伝える」ことに力を入れてしまい、受信者である市民がどのような情報を必要としているかという視点を見失ってしまうのです。
結果、市民にとって「分かりづらい」=「伝わらない」文書を作ってしまうことになります。
読み手に思いを馳せること、言い換えれば、読み手に寄り添うことで情報の優先順位も変わります。発信者としてだけではなく、受信者としての視点を持つことで文書の見え方・書き方が大きく変化します。
今回のプロジェクトの中では、参加者の視点の変化に伴って文書ががらりと変わっていく姿が印象的でした。
国際課 ダンさん:
改善した事例として、国民年金保険料に関するチラシがあります。もともとは文字数や難しい用語が多く、受け取った人は何をしたら良いのか分かりにくいものでした。
それを、まず簡単な言葉に置き換え、箇条書きや図を使って分かりやすくしました。さらに、「やさしい日本語」やイラストを使った外国人向けも用意しました。
【事例】国民年金保険料のご案内
<改善前>
<改善後(日本人向け)>
<改善後(「やさしい日本語」)>
―これなら、いつまでに何をすれば良いかや、郵送が必要なことがすぐに分かりますね!
取り組みの中で大切にしていることはありますか?
10年前に留学生としてベトナムから来たダンさん。
自身の経験も活かして改善に取り組んでいる。
国際課 ダンさん:
「やさしい日本語」を実践するとき、単に日本語表現をやさしくするだけではなく、常に受け手となる市民目線に立つことを心がけています。
一つは、「読む負担を軽減」することです。
外国人住民にヒアリングしたとき、市役所からもらった案内を見ずにそのまま捨ててしまうケースをたくさん耳にしました。理由の中に、「言葉が難しい」と「文字だらけで、読む気がしない」があります。
そこで、まず読もうと思っていただくために、色や文字の大きさを工夫したり、イラストや図を入れたり、視覚的に負担を減らすことを心がけています。読み手のニーズに合わせて、情報量を最小限に抑えて、日本語を読む負担を減らすことにも気を付けています。
もう一つは、「『知らない』が前提」ということです。
市役所が発信する文書には、専門用語や難しい言葉がたくさんあります。そういう言葉は、日本語が得意ではない人に届けるのは、使うべきではありません。
さらに、外国人住民にとっては理解できない日本の制度や概念もたくさんあります。たとえば、僕の出身のベトナムでは、ごみは分別せずにまとめて出すのが当たり前なので、ごみを出すのにルールがあることを理解し身につけるのはなかなか大変なことです。
そうした文化的な背景・知識量の違いにも配慮して、文書を読むときに前提となる情報ができる限り少なくなるよう、読み手に寄り添って情報を発信することを大切にしています。
文書改革専門官 松本さん:
ダンさんがおっしゃった「『知らない』が前提」は、「やさしい日本語」だけでなく通常の市民向け文書作成でも大事な視点です。
「読み手の知識量や語彙力、思考力の差が、文書理解の違いにならない」というスタンスは文書作成の肝の一つだと思います。それを実践する過程で読み手に対してより深く寄り添うことができると思います。
昨年4月に文書改革専門官に就任した松本さん。
あらゆる部署から分かりやすい文書作成の相談を受け、改善提案・発信を行っている。
―常に市民目線で、発信しているのですね。
今後は、どのような取り組みを考えていますか?
国際課 中井さん:
「神戸市版やさしい日本語ガイドライン」の作成などを検討しています。蓄積してきたノウハウやルールをまとめて見える化し、さまざまな部署の職員が「やさしい日本語」を実践できるようにしていきたいと考えています。また、市役所の職員向けに、日本語教師によるやさしい日本語に関する相談窓口も設けて、相談に乗っていきます。
さらに、今後は、市役所の文書だけではなく、区役所の窓口応対、そして地域でのコミュニケーションの中にも「やさしい日本語」の考え方を広げていきたいと考えています。
これからも、市民のみなさんに分かりやすく情報をお届けできるよう、取り組みを進めていきます。ぜひみなさんも、身近な外国人の方と話されるときに「やさしい日本語」を意識してもらえると嬉しいです。