記者資料提供(2023年12月8日)
企画調整局医療産業都市部調査課
1.概要
神戸市立神戸アイセンター病院は、他人のiPS細胞から作製した網膜シートを、網膜色素変性患者の網膜下に移植する世界初の臨床研究「網膜色素変性に対する同種(ヒト)iPS細胞由来網膜シート移植に関する臨床研究」を計画し、2例の移植を行ってきました。この度、移植後2年間の経過において細胞の生着及び安全性が確認された旨をまとめた成果論文が、科学学術雑誌『Cell Stem Cell(*1)』オンライン版(日本時間:12月8日)に掲載されましたので、下記のとおりお知らせいたします。
(*1)『Cell Stem Cell』は、ライフサイエンス分野における世界最高峰の科学学術雑誌『Cell』の姉妹誌で、2007年創刊の幹細胞研究・応用分野の専門誌。
2.研究成果
・移植した2例において、移植片(網膜シート)は2年間、安定した状態で生着しており、重篤な有害事象もなく、移植により増加した網膜の厚みが維持されていることが確認されました。また、視機能からみた病状の進行は、移植眼では非移植眼に比べ、同等または穏やかな傾向が確認されました。
・本研究の結果から、同種iPS細胞由来網膜シート移植における移植片(細胞シート)の生着及び安全性が確認されました。また、今回は限定的な範囲の治療ではありましたが、視機能への治療効果の可能性が示されました。今後、さらに本治療の安全性と有効性の調査が進むと期待しており、神戸アイセンター病院としても、一早く患者さんに治療を届けるために、引き続き、本治療法の研究・開発に取り組んでいきます。
3.主な研究体制
(神戸市立神戸アイセンター病院)
副院長 平見 恭彦 (実施責任者/研究責任医師)
院長 栗本 康夫 (移植手術執刀医師)
研究センター長 万代 道子、他
(細胞製造関連)
公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団:iPS細胞の提供
大日本住友製薬株式会社(現、住友ファーマ株式会社):iPS細胞からの網膜シートの製造
(支援機関)
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
事業名:「再生医療実用化研究事業」
「再生医療実現拠点ネットワークプログラム 疾患・組織別実用化研究拠点(拠点A)」
大日本住友製薬株式会社(現、住友ファーマ株式会社)
4.これまでの経過
2020年2月 大阪大学第一特定認定再生医療等委員会にて承認
2020年6月 厚生労働省 再生医療等評価部会にて了承、jRCT(臨床研究等提出・公開システム)にて公開(jRCTa050200027)
2020年10月 1例目の移植手術を実施
2021年2月 2例目の移植手術を実施
2022年10月 日本臨床眼科学会において、移植後1年の経過報告を発表
2023年12月 移植後2年の研究成果論文が科学学術雑誌『Cell Stem Cell』に掲載
参考
1.論文情報
<タイトル>
Safety and stable survival of stem-cell-derived retinal organoid for 2 years in patients with retinitis pigmentosa
<著者名>
Yasuhiko Hirami*, Michiko Mandai, Sunao Sugita, Akiko Maeda, Tadao Maeda, Midori Yamamoto, Hirofumi Uyama, Satoshi Yokota, Masashi Fujihara, Masataka Igeta, Takashi Daimon, Kanako Fujita, Tomoko Ito, Naoki Shibatani, Chikako Morinaga, Tetsuya Hayama, Aya Nakamura, Kazuki Ueyama, Keiichi Ono, Hidetaka Ohara, Masayo Fujiwara, Suguru Yamasaki, Kenji Watari, Kiyoko Bando, Keigo Kawabe, Atsushi Ikeda, Toru Kimura, Atsushi Kuwahara, Masayo Takahashi, Yasuo Kurimoto(*責任著者)
<雑誌名>
Cell Stem Cell(Cell Press)
<DOI>
10.1016/j.stem.2023.11.004
2.本臨床研究(網膜シート移植)の概念図
3.関連画像資料
移植手術の様子(神戸アイセンター病院 提供)
ヒトiPS細胞から分化した立体網膜組織(住友ファーマ株式会社 提供)
お問い合わせ
地方独立行政法人 神戸市民病院機構 神戸市立神戸アイセンター病院
電話 078-381-9876(代表)