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X線照射により生着・分化能を除去した造血幹細胞の再生医療への応用~他者の造血幹細胞を使った再生医療の実施可能性が高まる~

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記者資料提供(2024年5月17日)
企画調整局医療産業都市部

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 公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構(理事長:成宮周) 先端医療研究センター 脳循環代謝研究部の田口明彦部長らの研究グループは、日本赤十字社近畿ブロック血液センター、淀川キリスト教病院の研究チームと共に、X線照射することで生着・分化する能力を除去した他者の臍帯血造血幹細胞も、X線照射していない自己の幹細胞と同様に、損傷した血管や神経を修復・再生させる能力を有していることを明らかにしました。その成果が国際学会誌『Scientific Reports』に2024年3月22日にオンライン掲載されましたので、お知らせします。
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 白血病など血液疾患の患者さんに対して、他者の造血幹細胞の移植治療は広く行われています。ただ、移植後に他者の幹細胞が白血球細胞等に分化するため、自分の細胞を攻撃する移植片対宿主病(GVHD)とよばれる重篤な副作用を惹起する等の問題点があります。
 一方、脳梗塞、四肢虚血や脳性麻痺の患者さんに対して、自己の造血幹細胞を使った再生医療が行われ、その有効性も示されてきました。ただ、治療に際しては患者さん本人の骨髄や臍帯血から造血幹細胞を採取・調製することが必要なため、効果の高い造血幹細胞を十分量確保することが容易ではない等の問題点があります。
 神戸医療産業都市推進機構・日本赤十字社近畿ブロック血液センターらの研究グループでは、血管再生促進など、造血幹細胞を使った再生医療の基本的な作用メカニズムが、投与した造血幹細胞の生着・分化ではなく、投与直後のギャップ結合を介した作用であることを2020年に世界に先駆けて発見報告しており(注1)、その後も共同で、X線照射により生着・分化能を除去した造血幹細胞の再生医療への応用に関する研究を進めてきました。今回の成果では、X線照射することで生着・分化する能力を除去した他者の臍帯血造血幹細胞でも、X線照射していない自己の幹細胞と同様に、損傷した血管や神経を修復、再生させる能力を有していることが明らかになり、X線照射により他者の造血幹細胞を使った再生医療が実施可能であることが証明されました。
 造血幹細胞を使った再生医療は、臨床的な治療効果は高いものの、患者さん本人から十分量の幹細胞を採取・調製することが容易ではないため普及が進んでいませんでしたが、今回の成果により、臍帯血の有効利用などを通じて、造血幹細胞を使った再生医療の普及の可能性が、高まったと考えています。
発表者
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公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
先端医療研究センター 脳循環代謝研究部長 田口明彦
【経歴】
1989年 大阪大学医学部卒業
1996年 米国コロンビア大学 博士研究員
2002年 国立循環器病研究センター 脳循環研究室 室長
2011年 10月より現職

公益財団法人神戸医療産業都市推進機構  https://www.fbri-kobe.org
FBRIFoundation for Biomedical Research and Innovation at Kobe
神戸医療産業都市推進機構(理事長:成宮周)は、阪神・淡路大震災からの創造的復興プロジェクト「神戸医療産業都市」の中核的支援機関および先端医療研究機能を併せ持つ財団法人として2000年3月に設立されました。2018年4月、神戸医療産業都市推進機構へと組織を発展的に改組、「健康長寿社会に向けた課題解決策を神戸から世界へ発信していく」ことを掲げ事業を推進しています。

先端医療研究センター 脳循環代謝研究部  https://www.fbri-kobe.org/laboratory/research4/
 脳は一度壊れてしまうと二度と治らない、と長い間考えられてきました。寝たきりの原因 第1位は脳卒中、第2位は認知症であり、現状では、脳を治す有効な治療法がありません。しかし、最近の研究では、脳にも再生する能力があること、また脳の再生にはまず脳を支える血管の再生・活性化が必要不可欠であることが判ってきています。我々は、幹細胞や薬剤を用いた効果的な脳血管の再生・活性化に関する研究を行っており、国内外の研究機関や企業と共同で、これらの新しい知見を応用した脳卒中・認知症や老化関連疾患に対する治療法の開発を推進しています。今後は、その成果を実用化することで、脳を治す医療を神戸から世界へ発信していきます。

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注:脳梗塞患者や四肢虚血患者に対する再生医療で使用されている造血幹細胞の再生促進メカニズムは、幹細胞の生着・分化ではなく、細胞投与直後のギャップ結合(水溶性低分子が濃度勾配に従い自由に移動できる細胞間トンネル)を介したエネルギー源の供与であることを、田口らが2020年に世界に先駆けて発見報告。

論文タイトルと著者
【掲載誌】Scientific Reports
【URL】https://www.nature.com/articles/s41598-024-57328-z
【英文タイトル】X-irradiated umbilical cord blood cells retain their regenerative effect in experimental stroke
【タイトル和訳】X線照射した臍帯血細胞は脳梗塞モデルマウスにおいて再生・修復能を示す
【著者名】Kazuta Yasui1, Yuko Ogawa2, Orie Saino2, Rie Akamatsu2, Akihiro Fuchizaki1, Yoriko Irie1, Makoto Nabetani3, Mitsunobu Tanaka1, Yoshihiro Takihara1, Akihiko Taguchi2, Takafumi Kimura*1

1 Japanese Red Cross Kinki Block Blood Center, Osaka, Japan
2 Department of Regenerative Medicine Research, Foundation for Biomedical Research and Innovation at Kobe, Hyogo, Japan
3 Department of Pediatrics, Yodogawa Christian Hospital, Osaka, Japan

【所属】
1 日本赤十字社 近畿ブロック血液センター
2 神戸医療産業都市推進機構 先端医療研究センター 脳循環代謝研究部
3 淀川キリスト教病院

■ お問合せ
公益財団法人神戸医療産業都市推進機構
経営企画部 IBRI事業推進課 林
TEL: 078-306-0708  FAX: 078-306-1708
E-mail: kenkyu-fbri(末尾に @fbri.org をつけてください)