[2019年10月16日]Yahoo!JAPAN連載「データで探求!神戸ってどんな街?」

【第5回】道路のリデザイン~葺合南54号線~


時代によって「まち」に求められる姿は移り変わっていきます。戦後復興期、高度成長期、それぞれの時代にそれぞれの風景がありました。では、これからの時代に求められるまちの機能や佇まいとはどういったものでしょうか。

多くの人が集まり、にぎわいが生まれ、まちが活性化する……人口減少の時代にそれを実現していくためには、必然的に、一人一人がまちを楽しむ時間を増やし、関わりを濃くしていくことが求められているように思います。

この「葺合南54号線」の変化=車中心から人中心へのリデザインは、三宮エリア全体から見れば小さな変化にも見えますが、同じことがあちこちでおこれば、まちのあり方を大きく変える取り組みです。

道路にもいろんな役割があります。特に車道は、基本的にはある地点からある地点へ、多くの人ができるだけ早く移動する「効率性」を追求して発達してきました。とても重要な役割ではあるものの、そればかりだと人々は通り過ぎるだけになってしまいます。

歩道を広げ、ベンチをおいて、人が歩くことを楽しみ、待ち合わせたり、休んだり、まるで小さな広場のように憩える場所にしていこう、という「道路をリデザインする」試みが全国で行われており、この葺合南54号線の取り組みも、その代表例と言えるプロジェクトです。

この「リデザイン」の前後を写真で比較してみましょう。

リデザイン前の葺合南54号線
リデザイン前の葺合南54号線


リデザイン後の葺合南54号線
リデザイン後の葺合南54号線

 

現在の写真を見ると、ベンチに人が座り、小さなにぎわいがうまれています。これは明らかに以前には見られなかった光景であり、このプロジェクトが見事に道路のあり方を変えたことをあらわしています。このように歩きやすく、疲れたら気軽に休むことができる道が増えることで、まち全体がにぎわっていくことが想像できます。

まちづくりにおいて大切なことは、むしろここからです。利用する市民や旅行者の満足度を高め、さらににぎわいを生み出していく、車道とのトレードオフで獲得したこの空間の価値をさらに引き出していく必要があります。

それには、周辺含めたこのエリアの利用状況をデータで把握した上で、利用者の声に耳を傾け、改善施策を打ちながらPDCA(効果検証・改善)をまわしていく、といったことが重要となります。利用者の意見を知るという観点ではアンケートやインタビューが、詳細な通行量については調査員による調査が有効です。一方これらの調査はサンプル数や調査期間が限られ、季節性やイベント時の状況など網羅的でないという特性があり、そこに24時間365日の把握が可能なビッグデータを組み合わせることでエリアの理解を深めることができます。

ここでは神戸市で行われたいくつかの調査とヤフーのビッグデータを活用して、この「リデザイン」の結果を立体的に検証してみたいと思います。アンケート、交通量調査員による調査は、神戸市が実施した「都心道路における憩い・賑わい空間整備の効果検証」から引用します。

アンケート調査

まず、利用者へのアンケート調査です。葺合南54号線においては、平日のサンプルとして、2018年11月21日(水曜)、休日は11月23日(金・祝日)の午前9時〜午後9時の12時間の間に行われました。

交通量が通行状況を客観的に観察するものであるのに対し、アンケートは利用者の感じ方、意見を聞くものですが、この道は非常に高い満足度を得ています。特に休日の利用者にとってこういう場所があることは大変ありがたいことのようです。

アンケート結果
図1)アンケート結果:利用者満足度
 

利用方法についての回答は示唆に富むものとなっています。まず「休憩」がもっとも多いことはまさに狙い通り。さらに休日の「スマホでの調べ物」「昼食」「友人との会話」、さらに平日の「待ち合わせ」といったあたり、にぎわいや回遊の促進を期待させます。


アンケート:利用方法
図2)アンケート:利用方法について
 

さらに、この空間への機能ニーズについては、特に休日に関して「1人用・複数人用ベンチ」「WiFi」といった要望が寄せられました。休める場所をもっと増やして欲しいようですね。平日は「パラソル」があがっていますが、この夏神戸市では異常高温対策として日陰をつくりミストを設置する実証実験を行ったようです。

アンケート:この空間への機能ニーズ
図3)アンケート:この空間への機能ニーズ

 

このようにアンケートにより、利用する人々がどう感じているかを理解し、利用増にむけた打ち手のヒントを得ることができます。

交通量調査

次に、交通量調査員による交通量の調査です。この調査では各ポイントにおける自動車・歩行者・自転車の交通量を方向別に計測しています。たとえば、平日の歩行者のデータを見ると朝8時台に南行の、夕方17時〜18時に北行の通行量が多くなり、出勤する人々の動きが見えます。休日は朝のピークがなく、午後のピークにむけてなだらかな曲線を描いて増加することがわかります。
 

交通量調査(平日)
図4)交通量調査(平日)




交通量調査(休日)
図5)交通量調査(休日)
 

ヤフーのビッグデータによる調査

最後に、ヤフーのビッグデータで見てみましょう。

繰り返しになりますが、アンケートや交通量調査は、ほしいデータを直接的に得られる強みがある一方で、コストの観点から、実施できる日数やサンプル数が限られるという制限があります。一方、こちらのデータは、推計値ではありますが、24時間365日の変化を追うことができます。一時点の詳細な調査と、長期の分析が可能なビッグデータの組み合わせにより、より網羅的な把握が可能となります。

まず試しに、交通量調査と比較してみましょう。サンプル数を確保するため平日は、調査実施日(11月21日)を含む平日9日分(11月14日〜27日の平日)、休日は調査実施日(11月23日)を含む休日9日分(11月10日〜12月2日の休日)を対象に、調査内容とできるだけ近い形でデータを抽出します。

平日のグラフを見ると、交通量調査と同様、8時台と17〜18時台にピークが見えます。休日も交通量調査と同様に午後のピークにむけてなだらかな曲線を描いています。前提として、データの特性を理解し、さらに事例を積み重ねる必要がありますが、ビッグデータを使っての傾向分析はある程度有効といえそうです。

ヤフーのビッグデータによるにぎわい推定(平日)

図6)ヤフーのビッグデータによるにぎわい推定(平日)




ヤフーのビッグデータによるにぎわい推定(休日)

図7)ヤフーのビッグデータによるにぎわい推定(休日)

 
 

次に、他のデータでは難しい、本データの特徴を生かした分析をしてみましょう。

上述のアンケート結果にもあるように、平日に通勤のため毎日のようにこの道を往来する人と、主に休日にショッピングや観光のためにくる人とでは、再整備からうける恩恵が異なります。特に後者の方々がこの道に立ち寄ることでにぎわいにつながっているかが気になります。

あくまで推定になりますが、月15日以上三宮に通っている人(通勤通学と想定)と、それ以外の人(主にショッピングやおでかけと想定)にわけ、月次で傾向をみてみます。なお、ここでは同じ人が月内に何回きても1とカウントします。すると下記のように、おでかけと想定される人々が増加していることがわかります。

ヤフーのビッグデータ:長期のにぎわい推移

図8)ヤフーのビッグデータ:長期のにぎわい推移



 

通勤通学で毎日のように通う人がこのエリアに立ち寄ることも重要ですが、新しいにぎわいや経済効果という観点では、ショッピングやおでかけでくる人々が増えることがさらに重要で、「リデザイン」の効果をより明らかに把握できます。これは路上の観察ではなかなか見えにくいことです。

さらに、継続的に施策を打ちながら、状況を24時間365日モニタできます。こういったビッグデータの大きな強みです。

今後さらにこのエリアを盛り上げるためには、このエリアに対する認知を高め新規の誘導をはかる、あるいはリピーターを増やす、利用が多い時間帯の満足度を高める、逆に利用が少ない時期の原因を解消するなど、さまざまな戦略が考えられますが、その戦略を選択する際にも、こういったデータを根拠としていくことが重要です。そして、実際にさまざまな施策をうちながら、効果のある施策を見つけていくことが大切です。

データで最適化するまち=スマートシティ

このようにデータをうまくつかって課題を把握し、施策の効果をデータでモニターしながら最適化していく街を、スマートシティといいます。代表的な例が、スペインのバルセロナ市ですが、神戸市はバルセロナ市と姉妹都市であり、データを使ったまちづくりを考えるイベント「World Data Viz Challenge 」を毎年共催しています。ぜひこのイベントもご覧ください。

ヤフーのデータソリューションチームは、街の課題が、ひとつずつ解決され、住みやすくなっていくよう、データで支援をしていきます。