最終更新日:2024年9月3日
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万葉の時代から現在活躍中の作家まで、「垂水」が登場する文学作品を7篇ご紹介します。神戸市立中央図書館に蔵書が確認されているものばかりです。あなたの中の「垂水」のイメージが変わるきっかけとなるかもしれません。
戦後の混乱期から安定期に向かっての横浜と神戸を舞台にした、主人公八坂葉介の数奇な物語である。
1950年代~60年代の三宮や塩屋を知っている者にとっては、非常に懐かしい。
物語の後半に舞台が神戸に移り、須磨の別荘を拠点に三宮でバーを経営する葉介の元に現れるのが李蘭。1982年冬、四半世紀近く李蘭と暮らしたジェームス山の古い洋館が焼失し、焼け跡から李蘭が焼死体となって発見され、主人公の彼女に対するひたむきな愛が終わりを告げる。(講談社)
旧ジェームス邸を望む
作者が住む垂水・舞子の商店街、神社、施設などについて、散歩風に軽いタッチで紹介したエッセイ。
1973年3月に掲載されたもので、当時北区と西区はまだ誕生していない。国鉄も民営化されておらず、明石海峡大橋の影も形もないときである。
もし、執筆中に大橋の工事が始まっていたら、作者はどのように触れていたのだろう。「筒井康隆全集14」(新潮社)より
海神社
第二次世界大戦に突入していく暗い時代、単純、実直で電車とその運転が大好きな「私」は、山陽電車の運転士。
山陽電鉄、淡路島、海岸線など、今でもわたしたちになじみのある環境を背景に、「美しい女」を心に描く「私」の周りに、さまざまな事件がまき起こる。(中公文庫)(「築摩現代文学体系66」にも収録)
現在の滝の茶屋付近
志賀直哉の作品中、唯一の長編。
愛の破綻、子どもの死、妻の過失。苦悩し、それを乗り越えてゆく姿を描く。
愛の破綻後、放蕩の深みに堕ちてゆく主人公は、精神の自立を求めて旅に出る。
物語の前半、「第二」の「二」の冒頭、尾道へ向かう途上、汽車からの描写の一節に垂水の海岸線の様子が出てくる。(新潮文庫ほか)
わずかだが残っている舞子の砂浜
「コスモポリタン」というアメリカの月刊誌に掲載された短編小説。
平磯のあたりは暗礁が多く、潮の流れも速い難所として古くから知られていた。
その難所を利用して、バアトンという男が、ほぼ負けることのない賭けをする一節に垂水が出ている。
「コスモポリタンズ」(ちくま文庫)より
海の難所に造られた平磯灯台
石激 垂水之上乃 左和良妣乃 毛要出春尓 成来鴨
(いはばしる たるみのうえの さわらびの もえいづるはるに なりにけるかも)
石走 垂水之水能 八敷八師 君尓恋良久 吾情柄
(いはばしる たるみのみづの はしきやし きみにこふらく わがこころから)
命 幸久吉 石流 垂水水乎 結飲都
(いのちをし さきくよけむと いはばしる たるみのみづを むすびてのみつ)
須麻乃海人之 塩焼衣乃藤服 間遠之有者 未著穢
(すまのあまの しほやききぬのふぢごろも まどほにしあれば いまだきなれず)
天離 夷之長道従 恋来者 自明門 倭嶋所見
(あまざかる ひなのながぢゆ こひくれば あかしのとより やまとしまみゆ)
留火之明大門尓 入日哉 榜将別 家当不見
(ともしびのあかしおほとに いるひにか こぎわかれなむ いえのあたりみず)
台湾出身で東京に住む呉龍馬が主人公である。
小説では、彼が神戸で貿易商を営んでいる叔父を訪ねて来て、神戸を舞台に物語が展開されている。
華僑の呉錦堂が建てた移情閣の豪華さに心を打たれた島村サキ子は、龍馬に対してバナナで大儲けしようと提案する。(中央公論社)
夜の移情閣