私たち一人ひとりは、自分の人権だけでなく、まわりの人達の人権も正しく理解し、尊重しあうことが大切です。
このページでは、私たちの身近にある「さまざまな人権課題」を紹介します。
【じんけんクエスト】
アンコンシャスバイアスルメイカ
無意識の偏見のことを「アンコンシャス・バイアス」といいます。
あなたの考えにも、知らないうちにバイアスがかかっているかもしれません。
次の記事「人権課題 「女性」」を読んで考えてみましょう。
人権課題「女性」
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わが国では、日本国憲法に男女平等の理念を取り入れ、男女雇用機会均等法、男女共同参画社会基本法、女性活躍推進法などの法律を制定し、性別による差別的な取り扱いを排除し、個人として能力を発揮する機会の均等が確保されるよう様々な取り組みが進められてきました。
しかし、今なお、男性に向いている役割や責任、女性に向いている役割や責任などといった意識が社会に残り、個人の希望や能力ではなく「性別」によって生き方や働き方の選択肢や機会が決められてしまうことがあります。
さらには、セクシュアル・ハラスメントや配偶者等からの暴力(DV)、特に女性に関しては、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いなどの問題が近年でも多く発生しています。
わが国だけでなく、様々な形態の暴力により人権が侵害されたり、性別による無意識な思い込みにより未来が狭められてしまったりしている女性が世界には大勢存在します。
2015年9月に開催された国連サミットではSDGs(持続可能な開発目標)として17の目標を採択し、そのうちのひとつに「ジェンダー平等を実現しよう」が掲げられました。「ジェンダー平等」は、ひとりひとりの人間が、性別にかかわらず、平等に責任や権利、機会を分かちあい、あらゆる物事を一緒に決めることができることを意味しています。
神戸市では、男女共同参画社会、ジェンダー平等の実現に向けて、「神戸市男女共同参画の推進に関する条例」に基づき計画を定め、市政全般への男女共同参画・女性活躍の視点の反映のほか、地域団体、経済団体など多様な主体と連携し、男女共同参画に関する理解の促進、男女の人権の尊重、固定的役割分担意識や性差に関する偏見の解消等につながる広報・啓発など、様々な取り組みを進めています。
セクシュアル・ハラスメントとは、相手の意に反する「性的な言動」等によって、活動するうえで不利益を被ったり、活動環境が悪化したりすることを言い、相手の性別等は関係ありません。
性的な内容の言動とは、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(噂)を流布すること、性的な冗談やからかい、相手の性別にかかわらず、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すことなどであり、性的な関係を強要すること、必要なく身体へ接触するなどの行動も当然にセクシュアル・ハラスメントに該当します。
職場においては、「職場の力関係」を背景にして行われることが多く、新入社員や契約更新の不安を抱える非正規雇用がターゲットになるケースが多いとされています。男女雇用機会均等法は、事業主に対し、職場におけるセクシュアル・ハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講じることを義務づけています。
また「性的な言動」として、「ホモ」「レズ」「オカマ」などの言葉が侮蔑的、差別的に使われたりすることがあります。女性や男性という性別だけでなく、性的指向、性表現なども含めて性に関わる言葉を使って他人を揶揄することは差別につながること、さらには相手の人だけでなく、周囲にいる人たちも傷つける場合があることを十分に認識する必要があります。
「Domestic Violence(ドメスティック・バイオレンス)」、略して「DV」には、明確な定義はありませんが、一般的に「配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者から振るわれる暴力」という意味で用いられます。
配偶者等による暴力では、多くの場合、女性が被害者となっています。その背景には、今でも男性が主で、女性が従といった観念が残っていることや、男女間の社会的地位や経済力の格差といった構造的問題が大きく関係しているといわれています。
言うまでもありませんが、女性、男性を問わず、暴力は犯罪にもなり得る行為であり、重大な人権への侵害であって、絶対にあってはならないことです。
DV被害に対しては、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(DV防止法)において、配偶者暴力相談支援センターへの相談や緊急時の一時保護、加害者を遠ざけるための裁判所の保護命令などを定めています。
神戸市でもDV防止法に基づき計画を定め、市民へのDVに関する理解促進や予防啓発、被害者等の相談支援などの様々な取り組みを行っています。
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人権課題「同和問題」
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同和問題(部落差別)とは、日本の歴史の中でつくられた身分差別により、日本国民の一部の人々が、長い間、経済的・社会的・文化的に低い状態に置かれることを強いられ、同和地区や被差別部落と呼ばれる地域の出身であることや、そこに住んでいることなどを理由に、日常生活のうえで今もなお差別を受けるなどしている、我が国固有の人権問題です。
部落差別の歴史的な背景は、近年の研究で地域ごとに多様性があることがわかってきていますが、封建社会が確立されていく過程の中で、為政者が支配体制を維持・強化するために、当時の社会にあった偏見を利用して人為的に作った身分制度に由来しているとされています。
為政者が民衆を支配して統治するためには、例えば皮革品の武具や馬具の製造、犯罪人の取締りや刑の執行、まちの清掃などの役目を担う人員が必要です。為政者は、これら役目を担う人々を一般社会の外に低い身分として固定化することで確保し支配体制を固めていったとされています。
この身分制度は江戸時代に法制化され、被差別身分の人々は、住む場所を限定されたり、服装や結婚相手を制限されたりして、部落差別が強化されていきました。
明治維新により新政府が誕生し、1871年には賎民廃止令(解放令)が出されて法制上の身分制度は無くなりました。しかし、その後も実質的な部落差別は続き、差別を受けていた人々は、新政府が進める近代化により元の職を失ったうえ就職もできず、生活は困窮を極めていきました。
このような状況から脱却するため、部落差別を受けていた人々は1922年に全国水平社を設立して部落解放運動を展開した時期もありましたが、第2次世界大戦で活動休止を余儀なくされました。そして、国が本格的な同和対策事業に動き出したのは、戦後の高度経済成長が終盤を迎える時期になりました。
戦後、1946年に現在の日本国憲法が公布されましたが、同和問題の解決に向けた国の同和対策審議会の答申が出されたのは1965年でした。
その中で、同和問題は、日本国憲法にうたわれている基本的人権にかかわる問題であり、その解決は「国の責務」で、「国民的課題」であるとされました。この答申を受け、政府は1969年に「同和対策事業特別措置法」を制定し、生活環境の改善や社会福祉の増進、産業の振興、教育の充実、人権擁護活動の強化に係る様々な施策を行うことになりました。
法律の制定を受け、神戸市においても、1972年に「神戸市同和対策協議会」を設置、1973年には「神戸市同和対策事業長期計画」を策定し、地域住民とともに住宅や道路の改良、福祉施設の整備などに取り組みました。
その結果、地域の物的な生活環境は大きく改善され、2002年3月末に同和対策事業は終了しました。
しかしながら、依然として部落差別が解消されたとは言えないような状況が続いています。
国から2020年に公表された「部落差別の実態に係る調査」では、「現在でも部落差別があると思うか」の問いに対して、回答者の73.4%が「いまだにある」を選択しています。
さらに兵庫県が2023年度に行った「人権に関する県民意識調査」(5年ごと実施)でも、「同和問題(部落差別)に関して、今、特にどのような人権問題が起きていると思うか」(選択は3つまで)の問いに対する回答は、「結婚の際の周囲の反対」が22.4%、「居住の敬遠」が18.9%となっており、2013年度、2018年度の調査結果と比較すると減少傾向にあるものの依然として上位となっています。
また、近年は、インターネットの匿名性を悪用し、掲示板サイトなどに特定の地域やその住民・出身者への誹謗中傷や誤った情報が書き込まれたり、地域や個人が特定できる情報が書き込まれたりしています。
こうした行為は、書き込まれた相手を傷つけるとともに、これらの書き込みを見た人たちが誤った情報を鵜呑みにして拡散すれば、さらに差別意識を助長・拡大していくことになります。
21世紀を迎えた現代において、多くの人は、部落差別がいわれのない不合理なものであると理解されていると思いますが、前述したように今なお差別事象は続いています。
国では2016年12月に「部落差別の解消の推進に関する法律」を施行しました。この法律では、全ての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の理念にのっとり、部落差別は許されないという認識の下に、これを解消することが重要な課題であることが明記されています。
私たちは、同和問題(部落差別)を正しく理解して「部落差別は許されない」という認識を持ち、自分のこととして考え、行動していくことが大切です。
「えせ同和行為」とは、例えば、同和問題に対する理解不足などの理由で高額の書籍を売りつけるなど、同和問題を口実にし、企業や個人、団体、官公署などに不当に利益供与等を求める行為を指します。えせ同和行為は、国民に同和問題に関する誤った意識を植えつける大きな原因となっています。
また、えせ同和行為の横行は、国や地方の行政機関の差別解消の推進に対する大きな障害になるという認識に立ち、行政機関等が一体となってえせ同和行為の排除に努めています。
「えせ同和行為」に対しては、き然たる態度で断固拒否するとともに、具体的な要求を受けたときは警察(全国暴力追放運動推進センター)、弁護士会、法務局へ相談しましょう。
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人権課題「インターネット」
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総務省の「情報通信白書 令和6年版」によると、インターネットのSNSや動画共有サイト等のソーシャルメディアの利用者数は、2023年に全世界で49億人、日本では1億580万人に達し、今後も増加していくことが予測されています。
インターネットのソーシャルメディアは、欲しい情報が比較的簡単に得られたり、多くの人とコミュニケーションの輪を広げられたりするといった利点があります。
その一方で、自分の名前を表示しないで利用できる匿名性を悪用した書き込みが横行し、人権に関わる問題が発生しています。
例えば、本人の承諾なく個人情報を掲載するプライバシー侵害、個人・団体に対する誹謗・中傷、外国人等へのヘイトスピーチ、同和問題をはじめとする偏見や差別の助長などがあげられます。
また、子ども同士のいじめや、出会い系アプリにより知り合った相手から性的被害や暴力を受けるなど犯罪に繋がる事件なども起こっており、深刻な社会問題となっています。
インターネットのソーシャルメディアを利用するときには、お互いの顔は見えなくても、直接、人と接するときと同様にルールやモラルを守ることが必要です。
インターネットでつながった相手も実際に存在する生身の人間であることを忘れず、相手の気持ちや立場を考えてコミュニケーションをとることが大切です。
インターネットでは、一旦、掲示板などに書き込みを行うと、その内容がすぐに広まってしまいます。「デジタルタトゥー」と呼ばれたりしますが、その書き込みをネット上から完全に消すことは容易ではありません。
匿名だからといって軽い気持ちで他人を貶める情報を書き込むことや、自ら書き込まなくとも、そのような情報を安易に拡散することが、思いもよらぬ深刻な事態を招き、その責任を問われることは現実に起こり得ます。
- 他人を誹謗中傷する内容を書き込まない
- 差別的な発言を書き込まない
- 安易に不確かな情報を書き込まない
- 他人のプライバシーに関わる情報を書き込まない
- 書き込みが不特定多数の人に見られる可能性があるということを意識する
- 相手への配慮とセキュリティ対策
インターネット上に名誉を毀損したり、プライバシーを侵害したりする情報が掲載された場合、その被害者は、掲示板やSNSの運営者(管理人)に削除を求めることができます。
さらに「プロバイダ責任制限法」などにより、被害者は、プロバイダやサーバの管理・運営者などに対し、人権侵害情報の発信者(掲示板やSNSなどに書き込んだ人)の情報の開示を請求したり、人権侵害情報の削除を依頼したりすることができるようになっています。
また、プロバイダでは、法務省の人権擁護機関から削除要請を受けた場合にも対応しています。
もしも、インターネット上で人権侵害の被害を受けたときは、一人で悩まず、下記を参考に相談してください。
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人権課題「性的マイノリティ」
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人間の性のあり方(セクシャリティ)は、大きく分けて、
- 身体の性
- ジェンダーアイデンティティ(心の性)
- 性的指向
- 性(別)表現
の4つの要素があるとされており、その組み合わせによって人それぞれのセクシャリティが形作られています。
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身体の性/出生時に医師等が生物学的特徴によって割り当てる性(別)のこと。戸籍上の性(別)となる。
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ジェンダーアイデンティティ【Gender Identity】(心の性)/自分の性(別)をどのように認識しているかを示す概念。「心の性」とも言われ、「身体の性」と必ずしも同じではない。
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性的指向【Sexual Orientation】/自分の恋愛感情や性愛の対象がどのような性別に向かっているのかを示す概念。
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性(別)表現/服装や言葉遣い、振る舞い方など、周囲の人から見た性別の特徴
性の要素の組み合わせは多様であり、一人ひとり少しずつ異なっていることから「性はグラデーション」と言われることもあります。
「身体の性」と「心の性」が同じ人もいれば、例えば「身体の性」は女性で「心の性」は男性というように違う人もいます。
また、性的指向が異性に向く人もいれば、男性を好きになる男性、女性を好きになる女性など同性に向く人もいます。服装や振る舞いなど「表現する性」も人それぞれ違います。
人間のセクシャリティは自分の意思で決められるものではありません。
個人のセクシャリティは、「正しい」「間違い」ではなく、一人ひとりが違うもの、すなわちその人らしさを表していて、互いに認め合い、尊重すべき大切なことなのです。
「SOGIハラ」という言葉がありますが、この「SOGI」とは、性を構成する要素の性的指向(Sexual Orientation)とジェンダーアイデンティティ(Gender Identity)の頭文字をとったもので、すべての人が持ち得る性の構成要素を包括して表す概念です。
そして「SOGIハラ」は、性的指向やジェンダーアイデンティティに関する言動で人を傷つける行為のことです。
一方、マスメディアなどでよく耳にする「LGBTQ」は、(L)レズビアン、(G)ゲイ、(B)バイセクシュアル、(T)トランスジェンダー、(Q)クエスチョニングの英語標記の頭文字をとったもので、性的マイノリティの総称の一つとして使われています。
- レズビアン【Lesbian】/性的指向が女性に向く女性。いわゆる女性同性愛者。
- ゲイ【Gay】/性的指向が男性に向く男性。いわゆる男性同性愛者。
- バイセクシュアル【Bisexual】/性的指向が男性にも女性にも向く人。いわゆる両性愛者。
- トランスジェンダー【Transgender】/身体の性とジェンダーアイデンティティが一致せず違和感を持つ人。
- クエスチョニング【Questioning】/ジェンダーアイデンティティや性的指向が定まっていない人、定めていない人など。
現在は、性の多様性についての理解が少しずつ進んできていますが、今でも多くの人は、自分の周りには性的マイノリティは「いない」「会ったことがない」と思っているのではないでしょうか。
民間の調査等によると、日本における性的マイノリティの人数は、平均すると全人口の約5%から8%程度という結果が出ており、少なくとも20人に1人という割合になります。これは、血液型がAB型の人や左利きの人と近い割合になり、実は身近な存在なのです。
にもかかわらず、性的マイノリティが周りの人から「いない」と思われているのは、残念ながら我が国では性の多様性への理解が十分ではなく、当事者が偏見や差別を恐れて周囲に伝えることができずにいるのではないでしょうか。
自身のセクシャリティを他人に打ち明けるときに「カミングアウト」という言葉がよく用いられます。カミングアウトは、当事者本人が決めることであり、周囲の人がカミングアウトを強要してはいけません。
また、カミングアウトを受けたときは、当事者本人は勇気を出して打ち明けていますから、その気持ちに寄り添いながら話を聴くことが大切です。そして、本人の了解なしに他の人に話すことは絶対にしてはいけません。
カミングアウトを受けた人が、本人の了解なく他の人に暴露することを「アウティング」といいます。
本人によかれと思って他の人に話してしまう場合もありますが、アウティングは、打ち明けた本人をひどく傷つけ、ときには命さえ奪ってしまうような、重大な人権侵害となります。
国では、性の多様性への国民全体の理解を進めていくために、2023年6月に「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」を施行しました。
神戸市では、これまでもホームページへの記事掲載、講演会等の開催、イベント時の小冊子の配布などによる啓発、学校教育では子どもたちの年齢に応じた学習機会の提供に取り組んでおり、引き続き国等とも連携しながら進めていきます。
また、神戸市では、性的マイノリティやその家族等への支援として、専門の相談員による電話相談を行っています。「自分の性別に違和感がある」「同性を好きになった」「友達から『トランスジェンダー』と打ち明けられたがどのように接したらいいか分からない」など、秘密厳守でお名前を名乗らなくても相談に応じていますので、一人で悩まずにご相談ください。
「アライ」は、英語の「同盟、支援」を意味する「ally」を語源とし、性的マイノリティの理解者、支援者の呼称として使われています。
例えば、性的マイノリティ当事者が普段生活している学校や職場などで当事者のことを理解して支えてくれる友人や仲間、あるいは性的マイノリティへの理解促進や当事者等のサポートのために積極的に行動する人たち(団体)など、当事者を支援する人は様々に存在し、その総称がアライということです。
また、近年では、企業がアライを表明し、性的マイノリティへの支援活動を展開する事例も増えてきています。
最近は性の多様性への理解が進んできていますが、性的マイノリティー当事者は、今もまだ偏見や差別を恐れて声を上げづらい状況にあります。アライはこのような当事者の声を代弁し、または寄り添うことで、誰もが生きやすい社会を作ることに貢献しています。
アライとは「こうあるべきだ」というものはなく、性的マイノリティー当事者に寄り添って、その声に耳を傾けることが理解への第一歩ではないでしょうか。
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さまざまな人権課題について、中学生向け人権啓発冊子「あすへの飛翔」から、動画付きで紹介します。