神戸市内の土木遺産の紹介

最終更新日:2020年10月27日

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神戸の土木遺産

神戸大学神吉和夫
神吉 和夫(土木学会選奨土木遺産関西支部推薦委員会委員長)

土木工学は英語ではCivil Engineeringと言います。その歴史は人類社会の歩みとともに始まったとされていますが、土木工学を専門とする技術者があらわれるのは西欧近代社会です。Civil Engineer達は産業革命のなか、より豊かな市民社会の実現を目標に、技術と科学を融合させるべく努力し、イギリスでは1818年に土木技術者協会が設立されています。イギリスでは当時、技術に関する高等教育機関がなかったため、協会に集まったのは市民階層の実務家でした。

日本ではCivil Engineeringは土木学、さらに土木工学と訳され、工部大学校、帝国大学等に専門課程を設けて人材の養成にあたりました。わが国の近代化は、西欧近代社会を支えた市民層を欠いた、上からの近代化がその特徴ですが、土木事業としては港湾整備、農地開発、河川改修等が当初はお雇い外国人技術者の指導のもと、のちには日本人技術者の手によって全国各地で行われます。

文化財というと、社寺、書画、美術工芸品とか伝統的建造物群としての町並み等を思い浮かべる人も多いでしょう。長い歴史の中で生まれ、伝えられてきた貴重な文化遺産は、歴史・伝統・文化等の理解のために不可欠であり、また、将来の文化の向上発展の基礎となるものです。

土木構造物はインフラ(社会基盤施設)として建造され、人々の日常生活を支え、地域のランドマークとして親しまれているものも多かったのですが、従来、文化財として認識されることは少なく、耐用年数が過ぎ老朽化したり、時代の要請に応えられなくなって更新されてきました。しかし、時代は変わろうとしています。文化庁は1990(平成2)年度より、わが国の近代化を支えたインフラ・産業を主体とする近代化遺産の調査を開始し、藤倉水源地水道施設(秋田市) などを重要文化財に指定するとともに、1996(平成8)年度より有形登録文化財制度を発足させました。

神戸では、わが国初の重力式粗石コンクリート造の布引五本松堰堤、重力式粗石モルタル造の烏原立ヶ畑堰堤、奥平野浄水場急速濾過場と和田岬燈台が有形登録文化財に指定されています。

阪神大水害、戦時の空襲、阪神・淡路大震災等の相次ぐ大災害、時代の要請に応えるべく行われたインフラ改修・更新を経て、なお存続し働き続ける貴重な神戸の土木文化財は他にも、わが国最古級の煉瓦造近代下水道の神戸外国人居留地下水道、わが国初の河川トンネルの湊川会下山トンネル、等があります。

21世紀を迎えた今日、戦後の高度経済成長期のような急激に国土・地域を変貌させた社会変動の再現はないでしょうし、大量生産、大量消費を賛美する時代は終わろうとしています。量から質へ、環境を重視し、心豊かに安心して暮らせる循環型の持続可能な社会が求められています。

神戸とその周辺に残された近代土木遺産を訪ねながら、世界屈指の国際港湾都市・神戸の未来を考えてみるのも無駄ではないと思います。

神戸の土木遺産リスト

下水関係

旧・居留地下水渠

水道関係

河川関係

湊川隧道(会下山トンネル)

港湾関係

農業関係

お問い合わせ先

建設局道路計画課