神戸市における結核患者数は年々減少していますが、未だに年間約200人の結核患者が新たに発生しています。
日常の診療の中で、結核の可能性も考えながら診療にあたっていただきますようお願い致します。
結核を疑うべきとき
- 咳が2週間以上続くとき。
- 胸部単純X線画像で、空洞を認めるとき。
- 微熱、全身倦怠感、食欲不振などがあるとき(特に高齢者では何となく元気がないなど顕著な呼吸器症状がないことが多い。風邪症状でLVFXを投与し結核の発見が遅れ耐性化した例もある)。
結核を疑った時の対応
- 咳がある場合には「咳エチケット」を推奨(患者にはサージカルマスク、スタッフはN95マスク着用)。
- 咳がある場合には検査・診察を速やかに行い、院内での滞在時間を短縮。他の患者との分離が理想。
診断のための検査
- 喀痰抗酸菌塗抹・培養(適切な痰、3回)、結核菌群核酸増幅同定検査(PCR法、LAMP法等)。
- 抗酸菌培養陽性=結核菌群陽性ではないので培養後の同定は必須。イムノクロマトグラフィー法の一つであるキャピリア®TB-Neoは即日結果がわかり、精度も高い。
- 培養陽性の場合は薬剤感受性検査を行う。転院先で菌が培養されないこともあり、自院のスタッフのLTBI治療につながるため、患者が転院している場合にも行う。
また、保健所に培養陽性を連絡する。
- 喀痰が得られない場合は誘発喀痰、吸引痰、早朝胃液、気管支洗浄液等を試みる。
- 菌陰性で診断困難な場合、IGRA検査(クォンティフェロン®TBゴールドプラス、Tスポット®.TB)の結果を参考にできる(IGRA検査については、検査機関に予約が必要な場合がある)。
ただし、乳幼児・BCG未接種者ではツベルクリン反応検査の使用も可能。2歳未満はツベルクリン反応検査優先。
- 診断が確定したら、直ちに発生届が必要。
治療
- 標準治療はINH、RFP、EB(またはSM)、PZAの4剤2カ月、その後INH、RFPの2剤4カ月の計6カ月間(180日)である。
- LVFXはINHまたはRFPが使用できないときに投与を検討する。
- 菌が証明されなくても症状や画像所見から臨床的に結核の可能性が高いと判断して治療することはあり得る。その場合にも、単剤による治療は薬剤耐性の原因となるので行ってはならない。
保健所への届出が必要な場合
- 抗酸菌塗抹陽性かつPCR法、LAMP法等で結核菌群陽性と判明したとき。
- 未治療例で、PCR法・LAMP法等により結核菌群陽性、または抗酸菌培養陽性かつ結核菌群と同定したとき。(死亡後判明した場合も)
- 画像所見や除外診断等から活動性結核と診断、または活動性結核の可能性が高く治療を開始するとき。
- 治療が必要な潜在性結核感染症(LTBI)と診断したとき。
保健所への届出手順
- 【疑いのとき・迷ったとき】保健所へお電話ください
- 診断時は直ちに「患者発生届」を患者居住区の区役所・支所の下記届出先に提出。
届出様式及び届出先
入院の必要性
- 喀痰抗酸菌塗抹陽性かつPCR法、LAMP法等で結核菌群陽性の場合(感染性有)は原則入院(保健センターより入院勧告を行いますので、保健センターまで電話でご一報ください)。
- 状況により入院:喀痰抗酸菌塗抹陰性だがPCR法、LAMP法等で結核菌群陽性、抗酸菌培養陽性かつ結核菌群と同定、画像上排菌の可能性が考えられる、菌陰性だが咳が多い(特に、施設入所・医療機関入院中等の場合)。
- 喀痰抗酸菌塗抹3回陰性で、激しい咳がないまたは治療により咳がなくなった場合は外来対応可能。
感染性が否定できない患者への指示(検査中の場合等)
- 外来受診時・外出時(同居者が要る場合は家の中でも)はマスクを着用する(咳エチケット)。
- 外出を控える。特に公共交通機関は使用しない。
- 多くの人や小児と接する職種の人は仕事を休む。
感染性が否定できないのに患者が入院に同意しない場合
- 患者居住区の区役所・支所に届出のうえ、保健センター担当者と相談。
神戸市周辺の結核病床のある病院
西神戸医療センター(神戸市西区)TEL:078-997-2200
兵庫中央病院(三田市)TEL:079-563-2121
谷向病院(西宮市)TEL:0798-33-0345
入院・外来治療の依頼・紹介等
紹介時の患者・家族への説明
- 感染性結核の可能性が高く、周囲への感染を防止するため結核病棟への入院が必要である。
- 入院期間は、個々の状況によるが、治療開始時に感染性が高い場合1~2ヶ月程度となる。
- 保健所から入院勧告を受けての入院の場合、手続きを行えば利用できる公費負担制度がある。
- 全身状態が不良である場合を除き、適切な治療を受ければ治る病気である。
移動の指示
- 自家用車、介護タクシー、民間救急車等を使用(患者はマスク、同乗者はN95マスク着用)。
- 全身状態が不良で、早急に搬送が必要な場合のみ救急要請する。
家族に感染する可能性の説明
- 周囲への感染防止は、本人の「咳エチケット」が最も大切といえる。
- 家族等、濃厚接触者は感染している可能性はあるが、咳や痰がなければ他人にうつすことはなく、行動制限も必要ない。
- すぐに検査しても感染の有無はわからないため、一刻を争うことなく、平日に検査の種類や必要性・時期を区役所・支所の結核担当(保健センター)と相談する。
- 但し、新生児・乳幼児は発病が早く、妊婦は児への影響や分娩時の対応など特殊事情があるため、喀痰抗酸菌塗抹陽性患者が周囲にいる場合はすぐに相談してください。
感染予防対策
- 患者が滞在した空間(部屋、車等)は、十分に換気をすればよく、特別な消毒は必要ない。
- 接触者健診の必要性と範囲については区役所・支所の結核担当(保健センター)と相談する。
- 医療機関内の感染が疑われる場合にも区役所・支所の結核担当(保健センター)と連携して接触者健診を行う。
自院での治療時の留意点
- 医療費公費負担制度を使うには、結核指定医療機関であることが必要。
- 必ず結核菌の感受性検査結果を確認し薬剤耐性がある場合、副作用により標準治療が行えない場合には、呼吸器内科医に相談する。